僕は普段、障害のある方の就労支援に携わっています。
ご本人との面談だけでなく、ご家族との相談の場面も多くあり、ご家族からいろんなお話を聞かせてもらっています。
たとえば、利用前の初回面談ではご家族から生活の様子を伺ったり、支援を進める中で今後の就職に向けた方針を本人とご家族交えて話し合ったりすることもあります。
そんな中でよく感じるのが、「親と子どもの距離感」というテーマです。
どんな距離感が「良い」「悪い」と単純に言えるものではありませんが、親子の関係性が子どもの自己選択や自己決定を後押ししたり、逆に妨げてしまったりすることは、ご家族の話を聞いていて感じるところでもあります。
今回は、そんな「親子の距離感」について、実際の事例を交えながら考えてみたいと思います。
親と子どもの距離感とは?
そもそも、親子は生活を共にする存在です。特に未成年であればなおさら、距離が近いのは当然のことですし、子どもにとってその近さが「安心感」や「愛情」として伝わることも多く、育ちにとってはとても大切な要素かと思います。
ただ、一方で、親と子どもの距離が近すぎると、発達障害のある子どもの場合は特に、自分で判断する力や意思決定する力が育ちにくくなります。親に頼ることが当たり前になり、自己選択や自己決定を他人任せにしてしまう、なんてケースも少なくないように思います。
また、親の側が「なんでもやってあげなきゃ」と考えすぎてしまうと、知らず知らずのうちに過保護や過干渉になってしまうこともあります(※この点については別の記事で詳しく書いていますので、よければご覧ください)。
同居しながら適切な距離感を保ち、子どもが自立に向かっていく関係を築くことは、当たり前のことですが、簡単なようでいてとても難しいことです。でも、それを少しでも意識するだけで、親子関係には大きな変化が生まれるように思います。
事例1:福祉施設で働くお母さんの気づき
あるご家庭では、知的障害のある息子さんを育てながら、両親ともに働いています。お父さんは正社員、お母さんは福祉施設でパート勤務をしている共働き家庭です。
お母さんは、福祉施設で働くようになってから、息子さんとの関わり方に変化があったと話してくれました。以前は、どうしても親として先回りして手を差し伸べることが多かったそうです。しかし、施設での仕事を通じて、支援のあり方や利用する障害のある人の力を信じる大切さに触れる中で、「あれもこれもやってあげなきゃ」という考えから少しずつ離れられるようになったといいます。
「放っておけるようになった」と話すお母さんの言葉が印象的で、これは「見放す」という意味ではなく、「信じて見守る」という姿勢への変化だったように感じました。
親が新しい経験をすることで、子どもへの見方や関わり方が変わる。
そんな事例なように思います。
事例2:専門家をうまく活用したお母さんの安心
自閉症のあるお子さんを育てるお母さんは、小さい頃から学校とのやり取りを中心に、子どものことに深く関わってきました。学校でのトラブルや変化にうまく適応できない子どもの様子に心配が尽きず、時には精神的な不調もあったようです。
ある時から、お子さんが児童精神科を定期的に受診するようになり、そこから親子で診察に同行する機会が増えました。診察の中でお母さんは、先生に率直に子育ての悩みを相談し、先生から「それで大丈夫ですよ」「十分やれてますよ」といった言葉をかけてもらったことが、何よりも心の支えになったと話されていました。
お母さんとしては、具体的なアドバイスの中身よりも、「子どもとの関わり方を肯定してもらえた」ことが大きかったそうです。
児童精神科などの専門家を活用することは、発達障害の子育てにおいて重要なサポートになります。ただ、知識や助言を得るだけでなく、「親としての不安や迷いを受け止めてもらう」ことにも大きな意味があるのだと、改めて感じたエピソードでした。
理想は「適度な距離感」。でも、実際は難しい
2つの事例から、「ちょうどいい距離感」が子どもの自立にとって重要であると感じます。ただ、それを日々の生活の中で実践していくのは簡単なことではないのもまた重要なことです。
特に親が子どものことに長く関わってきた場合、「今さら離れるなんて無理」「手を出さないと不安」と感じることも当然あるでしょう。子どものことが気になる分、余計に手を出してしまうというのは自然なことでもあると思います。
でも、その「理想」に少しでも近づくためにできることはあります。
たとえば、外部の専門家の力を借りること。信頼できる医師や支援者に話を聞いてもらい、安心感を得ることで、少しずつ距離感を調整する余裕が生まれることもあります。
また、親自身が新しい環境に身を置いてみること。先ほどのように福祉施設で働くなど、親の視野が広がることで、結果的に子どもへの関わり方も変わってくる場合があります。
まとめ
子どもの自立を支えるために、親子の距離感はとても重要です。距離が近すぎれば過保護や過干渉になるかもしれないですし、遠すぎれば子どもとの関係性が築きにくくなる。そんな繊細なバランスの中で、どんな距離感がよいかに悩むご家族はきっと多いと思います。
今回紹介した2つの事例では、どちらも「自分一人で抱え込まないこと」が共通していました。親が新たな視点を得ることや、誰かに肯定してもらうことで、自然と「ちょうどいい距離感」が見えてくることもあるかと思います。
子どもと向き合う中で、少しずつ子どもの自立に向けた距離感を考えてもらえたらと思います。

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