知的障害は、「子どもの頃から知的な遅れと適応機能の低さがみられる状態を言う」と、本田先生の著書「知的障害と発達障害の子どもたち」(以下、本書)には書かれていました。
発達障害とは違う「知的障害」。
何が違って、どんな風に育てていけば良いのか?など、本書には事例も交えたわかりやすい解説が盛りだくさんになっています。
ここでは、本田先生の書籍を参考に「知的障害」をテーマにしてまとめてみたいと思います。
知的障害とは
僕も本業での研修講師で、就労支援の視点で「知的障害」を解説することがあり、その際は以下のように説明をしています。
知的障害とは、心身の発達期(概ね18歳まで)に現れた、生活上の適応障害を伴う知的機能障害。
知的機能や適応機能に基づいて判断され、知能指数により分類される(知能指数が70以下の場合には知的障害とみなされる)。
認知機能(理解・判断・思考・記憶・知覚)に障害があり、適切な配慮と支援が必要な状態。
知的障害は、知能指数によって行政判断され、IQの数値によって療育手帳等の障害者手帳の交付が手続きされます。
(都道府県によって、若干の違いはあるようです)
そのため、IQがどうしても着目されがちですが、「生活上の適応障害を伴う」とありますので、適応状態も知的障害を判断する重要なポイントです。
また、上記には「認知機能に障害がある」と書いてあります。
認知機能とは、簡単に言うと、さまざまなことを理解したり、考えて判断したり、記憶したりする脳の働きのことをいいます。
知的障害の人は、この認知機能に遅れや低さが見られ、生活面における支援が必要であったり、周囲環境に適応しづらくなる様子が現れたりします。
また、本書でも説明がされていましたが、知的障害はいわゆる「行政用語」で、診断基準(ICD-11、DSM-5)では、「神経発達症に含まれる『知的発達症』」の用語で整理されています。
ただ、このコラムでは、一般的に馴染みのある「知的障害」を使用して解説を進めていきます。
軽度知的障害と境界知能
先ほどの行政判断では、IQ70以下で療育手帳の交付が一般的と紹介しました。
IQはあくまでの目安ですが、70以下は知的障害と言われることが一般的でもあります。
また、最近は、「境界知能」への認知も高まってきました。
境界知能は、IQ70〜85未満が該当するといわれ、知的機能の標準偏差で見ると70〜85は13.6%となり、単純な考え方ではありますが人口の約14%は境界知能ということになり、支援を必要とする人は多くおられるように思います。
IQ70未満の方は知的障害と判定される可能性が高いため、特別支援教育や福祉サービス等に繋がるケースも多いかと思います。
また、幼少期や学齢期から適応機能に障害が現れることもあるため、早期より支援に繋がる場合もあります。
一方、境界知能は、療育手帳等の交付には該当しないこともあり、適応機能等の障害特性も見えにくい場合があり、例えば、「学校の授業でワンテンポ遅れた理解をする」「宿題が他の子どもより倍以上時間がかかる」といった様子があっても、「頑張ればいずれできるようになる」といった価値観が適応機能の状態をあやふやにしてしまうこともあります。
軽度の知的障害、もしくは境界知能の場合には、勉強のしづらさや生きづらさを発見しづらい場合があることを、ここで抑えておきたいと思います。
キーワードは「ゆっくり」
知的障害は、発達障害のような「アンバランスさ」があるわけではなく、知的機能の「遅れ」「低さ」が特徴です。ただ、本書(本田先生の著書)にありましたが、「自然経過で悪化はしない」も特徴でもあります。
一人ひとりの知的障害の特性に合わせて子育てや支援を実施すれば、「ゆっくりと育っていく」ことができます。
そのため、家族や支援者も、「ゆっくり」をキーワードに関わっていく必要があります。
本書では、
・他の子に比べてゆっくり
・スキルの獲得がゆっくり
・さまざまな程度のゆっくり(他の子と異なる)
など、子どもを育てるためのヒントとなる考え方をまとめておられます。
僕も、普段の就労支援の現場、それから今まで経験してきた生活支援等の支援現場でたくさんの知的障害のある人と関わってきました。
「ゆっくり」はたしかにキーワードです。
こちらからの情報はゆっくり伝える
ゆっくりを前提に本人に多くのことを求めすぎない
繰り返して伝えることでゆっくり学びに繋がることもある
他の知的障害のある人と比べない
今思うと、これらを大切にしながら知的障害のある人と関わってきたように思います。
ご本人の周りにいる家族や支援者は、「焦らない」「急かさない」「本人のゆっくりペースを大切に」がキーワードなように思います。
7つの事例と育て方や関わり方
さて、ここではよくある事例(苦手な場面)をもとに、具体的な育て方や関わり方をまとめておきたいと思います。
①授業の理解にワンテンポ遅れる
・授業別で理解がどの程度遅れるかを見極める
・教えるときは、ひとつずつ、ゆっくりと伝える
・口頭だけでなく、視覚的な教材も活用して教える
②宿題に時間がかかる
・宿題によって得意苦手があるかを把握する
・苦手な宿題の場合は、内容や量の変更を先生と相談する(苦手なら宿題なしにしてもらう)
・何時に宿題をするか、宿題が終わったらゲームができるなど、計画的に取り組めるようサポートする
③お金の計算ができない、お札ばかり使う
・お金の計算がどれくらいできるかを一緒に確かめる
・お金の使い方をロールプレイなどで一緒に練習する
・計算ができない場合は、現金でなくキャッシュレスを活用する
④お金を使いすぎてしまう
・食費や小遣いなど、用途ごとに財布を分ける
・お小遣い帳で収入と支出を書いて、少しずつ学べるサポートをする
・親や家族などの他者が金銭管理し、使う分だけ渡す
⑤レポート作成がうまく進まない
・テーマに沿う言葉やキーワードを箇条書きにして作成する
・アウトライン(タイトル、導入、本論、結論)を埋めてから作文する
・箇条書きに少しずつ言葉を追加して作文する
⑥複数の指示に対応できない
・ひとつずつ指示をして理解しているかを確かめる
・マニュアルや手順書などの視覚的なツールを使って指示をする
・身振り手振り、その場でやって見せるなど、できるだけ具体的に教える
⑦時間を意識して行動できない
・マイペースや過集中など、時間を意識できない理由を把握する
・タイマーを設定して、タイマー音で意識できるようにする
・タイムタイマーや砂時計など、時間を量で示して意識できるようにする
まとめ
・知的障害は、「知的機能」と「適応機能」に遅れ、もしくは低さがあるのが特徴
・IQだけが判断基準ではない
・知的障害は行政用語で、正しくは「知的発達症」
・境界知能は、IQ70〜85未満が該当するといわれる
・境界知能(知的障害がない場合)であっても、支援が必要なことは多い
・育て方や関わり方のキーワードは「ゆっくり」
・ゆっくりな「学び」と「成長」をサポートするのが大切
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